第9章 雄と雌の葛藤――性淘汰の理論と証拠
https://gyazo.com/d136058630b4ac0463c6e2455e2b05dc
1. 生物学における性差
「男と女」と「雄と雌」
近年のフェミニズムの議論では、人間の男女の違いはほとんどは文化によって作り出されるものだといった論調 生物学的な差は取るに足らないものであり、「男らしさ」「女らしさ」の概念は、すべて文化が作り上げてきた虚構なのだとしてしまえば、虚構を取り除くことで差別を解消することができるのだと議論できるのかもしれない
男と女というものは、ヒトだけが持っている属性ではなく、雄と雌という二つの性は多くの生物に見られるもの
性を持たずに増えていくこと
生物全体で見ると、有性生殖は多くの分類群で見られる、より一般的な繁殖様式
有性的に繁殖するすべての生物には、同種の中に雄と雌があり、同種に属していながら雄と雌はかなり違った形態や行動を示す
トゲウオの雄は繁殖期になると腹部が赤くなり、雄どうしで闘争してなわばりを持つ シカの雄には大きな枝角があり、闘争に用いられるが、雌にはない クジャクの雄は派手な飾羽を広げて雌に見せびらかすが、雌の羽はいたって地味 これらの動物たちは、もちろん文化によって雄と雌の行動が規定されているわけではない
一般的に生物の雄と雌が異なる理由を知ることは、性差別の問題を考える上でマイナスになるどころか、不可欠なことであると考えられる
ヒトの男女の問題を考える上では、人間に固有な状況を考慮に入れねばならないということは言うまでもない
ヒト以外のすべての有性生殖する生物に当てはまる理論をまったく考慮せずに、ヒトだけは異なるという前提からヒトを論じていくことには論理的根拠はなく、道を誤ることにもなりかねない
性差の存在
有性生殖する生物は、配偶子を放出し、他個体の放出した配偶子と合体させることによって繁殖する 親の遺伝子の半分のセットが入っており、2個体からきた半セットずつの遺伝子が合わさり、1セットになることによって子供となる
このことだけから考えれば、配偶子は半セットずつの遺伝子がつまっていさえすれば、どれもみんな同じ大きさであってよいはず
ところが、ほとんどすべての有性生殖する生物の配偶子には、精子と卵子という大小異なる2種類(2型)がある 精子を生産する個体が雄、卵子を生産する個体が雌と定義される
雌雄の決定的な違いは、生産する配偶子が大きいか小さいかというところにある
精子は小さいので大量に生産されるが、卵子は大きいので大量には作れない
卵子が大きいのはまわりに栄養を備えているから
精子は遺伝情報と自己推進する運動鞭だけからできている
精子と卵子が合体(受精)したあとの当座の栄養はすべて卵子が提供することになる 雌雄の違いが、生産する配偶子の違いであるのならば、そこだけが異なっているだけでよいはず
また、哺乳類のように雌が子に授乳するのならば、雌の乳腺は発達するが、雄の乳腺は発達しないのは当然と考えられる ところが、雄と雌の間には、それ以外の様々な性差が見られる 多くの哺乳類のからだの大きさは、雄の方が雌よりも大きい
小さい精子を生産するだけなら、雄はずっと小さくても構わないはずではないか
雄と雌とでからだの色が違う動物もたくさんいる
とくに鳥類ではその傾向が著しく、華麗な色彩をしているものはほとんどが雄の方
雄が美しい色をしている種類の雌は、たいてい地味な色をしている
シカやカブトムシの角、クジャクの美しい飾り羽などといった、「武器」や「装飾」は雄だけが持っていることがほとんど 生殖器の活動と直接に関係のないところで現れる、性に付随した特徴
多くの昆虫類では、サナギから成虫になる時期を見ると、雄の方がひと足早く出現して雌が出てくるのを待っている 渡りをする鳥の多くは、雄の方が先に目的地に到着してなわばりを構える
多くの動物は、片方の性だけがなわばりを持つことがある
多くの哺乳類は、どの年齢をとっても雌の死亡率の方が雄の死亡率よりも低く、雌の方が長生きするのが一般的
形態や行動パターンの性差に関しては、どちらの性が何を持っているか、何をするかについて、一貫した傾向が見られる
少数の動物だが、雄と雌で逆転している種もある
2. 性淘汰の理論
ダーウィンの性淘汰の理論
自然環境が相手の「一般的な」闘いにおいて有利な形質は、雄だろうが雌だろうがすべての個体が身につけるはずだと考えた
雄だけしか持っていない形態や行動は、雌はそれなしでも十分に適応してやっていけるのであるから、自然淘汰の点からすれば関係ないものだと考えた
片方の生の個体だけ発達させるような形質には別の淘汰が働いていることになる
ダーウィンは自然淘汰と性淘汰を分けて考えたが、現代の進化生物学では、性淘汰は自然淘汰の一部であるとみなされている ダーウィンは性淘汰は、繁殖の機会をめぐる競争から生じると考えた
配偶するためには、互いに相手を獲得するための競争があるはず 雄か雌かによって、その様子に違いが出てくるならば、その結果として、直接の配偶子生産とは関係のないところまで違いが出てくるかもしれない
ダーウィンは、雄は配偶相手の獲得をめぐって雄どうしで闘わねばならないが、雌にはそのような競争はほとんどないのだと結論した
雄どうしが競争せねばならないのだとしたら、雄の間には闘いに有利になる武器のような形質が発達する
雌はそのような武器的形質を発達させる必要がないはず
シカの角やイノシシの牙、カブトムシ類の角など
実際に求愛の時期に雄同士の闘いに使っていることがわかる
雄が装飾的形質を求愛誇示として見せて、雌はそれを指標にして配偶相手を選ぶ
このような性淘汰の過程が働いて、雄と雌とは、基本的な配偶子生産以外のところでも異なるようになったのだとダーウィンは説明した(Darwin, 1871) 大きな角や派手な羽飾りを作るためには余分なエネルギーが必要で、生存率をいくつか下げることになる
にもかかわらず、雌を獲得する競争において有利であり、繁殖の成功につながる重要な形質
生存上の有利さに働く淘汰と配偶上の有利さに働く淘汰とは、しばしば反対方向の圧力を及ぼすことになる
したがって、雄の角がいくら大きいほうが有利だとしても無制限に大きくなることはできない
性淘汰の強さを決めるもの――「親の投資」と「潜在的繁殖速度」
配偶者の獲得をめぐって争うのはなぜ雄なのか
ときには雌の方である種もあるが、比較的少ししか存在しない
ダーウィンは雌雄の争いについては説明を与えず、自然界を見渡すと、雄同士が闘うのがほとんどであると述べただけ
具体的には卵の保護や抱卵、育雛、授乳、子守りなどが含まれる
親はその分他の繁殖機会を犠牲にする
雄と雌の間には、親の投資にアンバランスがあり、卵子を生産する初期投資の大きい雌の方が大きな投資をする傾向があるが、受精後の世話は必ずしも雌だけの仕事ではない
魚類の多くは雄がより熱心にこの世話をする
トリヴァースは、性淘汰の強度は両性間の親の投資量の差が大きいほど強く、親の投資が小さな方の性が、大きな方の性との配偶機会をめぐって争うと論じた
一般に、雄よりも雌の方が親の投資が大きいので、雄間競争が激しくなる
ただし、雄が世話をするような性役割の逆転した種では、雌が雄をめぐって争う
しかし、生物界には雄が世話を受け持つのに、なおかつ雄同士が雌をめぐって争う種もいる
親の投資理論をさらに拡張する必要が出てきた
ある時点をとったときに、繁殖の準備ができている雄の数と雌の数との比
どちらかの性に偏っていれば、多い方の性の個体同士が、少ない方の性の個体の獲得をめぐって争わねばならなくなる
実効性比の決定は様々な要因が関わっているが、もっとも大事なのは、両性が1回の繁殖から次の繁殖にとりかかるまでに要する潜在的な速度
「配偶子を生産するのに要する時間」 + 「配偶に要する時間」 + 「子育てに要する時間」で決まる
実効性比が雄に偏り、雄余りの状態生じ、配偶相手の獲得をめぐる競争が雄同士の間に発生する場合
両性ともに子育てしない個体
雄と雌とを比べると、小さな精子を作るほうが時間もエネルギーも少なくて済むので、ほとんどの場合、雄の方が潜在的な繁殖速度は早くなる
雌が子育てをするけれども、雄は子育てにまったく関わらない場合
最後の項は雌の方が大きくなり、卵子の生産にはより時間がかかるので、雌の潜在的な繁殖速度の方が雄よりもずっと遅くなる
雄のみが子育てをし、雌は卵を生むだけで何もしない場合に、雄の方が繁殖速度が遅くなるケースが出てくる
式の最後の項は雄の方が大きくなる
最初の項は変わらず雌の方が大きい
3. 配偶者の獲得をめぐる競争と配偶者の選り好み
量と質の問題
配偶相手の獲得をめぐる競争には、数の問題とは別のもう一つ面がある
配偶相手としての資質に個体差がある場合に生じる、よりよい資質の配偶相手を求めての、質をめぐる競争
競争が強くない方の性にとっては、より質の高い相手を選んだほうがよいし、実際に選ぶことができる
実効性比が雄に偏っており、配偶者の獲得をめぐる競争が雄間にある場合には、雌にはそのような競争はないので、雌による選り好みが働く
しかし、どのような雄がよいかに関して、雌同士の選択が一致している場合には、そのような質の高い雄の獲得をめぐって雌間に競争が生じることがある
雄が無制限に一夫多妻的に配偶する場合には、すべての雌が同じ1頭の雄を選択しても、すべての雌がその雄と配偶できるかもしれない
雄自身の配偶行動に制限がある場合には、すべての雌が、自分の選択した雄と配偶できるとは限らず、雌間に競争が生じる
一夫一妻の場合、配偶のチャンスそのものとしては、どの雄も雌も、最終的には均等に得ることができるかもしれないが、雌雄それぞれに、配偶相手の質に個体差があれば、雄も雌もよりよい質の相手をめぐって競争することになる
数の上では競争関係が生じない場合でも、質をめぐる競争は存在する
同性間競争
以上より、実効性比にアンバランスがある場合、余っている性の個体間に配偶のチャンスを巡って競争が生じることがわかった
このような競争がある場合には、しばしば、競争のある性の個体同士が肉体的な闘争を繰り広げ、勝った個体が異性への接近を果たし、負けた個体を排除する
そのような場合は、競争する性の個体に、武器的形質が発達したり、からだの大きさが非常に大きくなったりする
例えば、ゾウアザラシの雄間には非常に強い競争があり、雄の体重は最大で雌の7倍近くになることもある では、実効性比が雌に偏っており、配偶のチャンスをめぐる競争が雌間にあるときには、雌に武器的形質が発達するのか
ただし、通常は角のような武器を雌だけが持っている動物は知られていない
実効性比が雌に偏っている動物と雄に偏っている動物とで、その偏りの大きさを調べると、雌に偏っている動物ではそれほど大きくない
精子間競争
繁殖のチャンスをめぐる雄間の競争には、個体同士の肉体的闘争の他にもう一つのレベルの闘争がある
雌が卵子に受精可能な時期に、複数の雄と配偶する可能性があるときに生じる
雌が産卵・出産までに1回しか交尾しない動物や、雌が1匹の雄とだけに独占的な配偶関係を持つような配偶システムでは、精子間競争は存在しないか、あっても弱いものでしかない
一方、ヒトのような動物では精子間競争はかなり厳しくなる
精子間競争で進化すること
精子間競争があると、精子がどのような形で雌の生殖管の中に入るか、精子の寿命はどのくらいか、交尾の順序によって受精の可能性が異なるかどうか、などの要因によって変化する
昆虫では雄の精子は精包というパッケージになって雌に渡され、雌の貯精嚢の中に貯められているが、最後に入った精子が有利になることが多いと報告されている 多くの昆虫の雄は、自分が交尾する前に、雌の貯精嚢の中にすでに入っている他の雄の精包を掻き出して捨ててしまうための、鈎のような構造を持っている
哺乳類の精子は、パッケージではなく液体中に混じって送り込まれるため、昆虫のような掻き出しによる精子の置換は不可能
ヒトを含む哺乳類における精子間競争は、雌の生殖管の中で複数の雄由来の精子が混合してしまった状況で起きることになる
このような状況では、大いに確率の問題となり、その場に存在する精子の中で、相対的に多くの精子を放出した雄が有利になる
精子生産力を測定する方法はいくつもあるが、体重に対する相対的な精巣の大きさを計算すること 近縁種間で比較すると、精子間競争の強い種類ほど、この値が大きいことがわかる
精子環境層の可能性があるときに雄がとりうるもう一つの戦略は、配偶者防衛 雄が雌を捕まえておいたり、つねに近くにいたりするなどの手段によって、他の雄の接近を許さないようにする行動
後述
配偶者の選り好み
繁殖のチャンスをめぐる競争がそれほど厳しくない場合には、配偶相手をその質によって選ぶことができる
多くの場合、雌
ダーウィンは、彼の理論から、雌による配偶者の選り好みがあることを予測したが、それを実証することはできなかった
雌による選り好みが立証されたのは、1981年のアンデルソンの実験から コクホウジャクは、雄がなわばりを構えて雌を呼ぶと、雌がそこにやってきて配偶し、巣を作って産卵する
繁殖期の雄には長い尾が発達する
アンデルソンは繁殖期の前半に観察を行い、同じような質のなわばりを持ち、繁殖期の前半になわばりの中に巣を作っている雌の数がほぼ同数であるような雄をたくさん選んで捕獲し、4つのグループに分けた
一つのグループの雄の尾を真ん中で切り取り、切り取った尾を別のグループの雄の尾に接着剤で貼り付けた
第3グループは、真ん中で切ったが、すぐに接着剤で張り戻した
第4のグループは、捕まえただけで尾には何の操作も加えなかった
結果は、尾を極端に長くされた雄たちが、有意に多くの雌を引きつけることができた
この研究以後、多くの鳥類や魚類で、雌による選り好みが実験によって検証されている
雌による選り好みが存在することに疑いはない
問題は選り好みが、雄のどのような質に働いているか
優良遺伝子とハンディキャップの問題
雄の長い尾羽根や美しい色など、雌が選んでいる形質は、雄の遺伝的な生存力の強さを表しているという説
個体の生存率を下げるような形質を発達させることのできる雄は生存力が強い
雄の遺伝的適応度を示す指標を手がかりにして配偶者選びをすれば有利となる
雄の遺伝的適応度の差異の原因は何であり、ハンディキャップとは正確にどのようなものであるかについて長らく議論が続いてきた
寄生者にやられると、雄のからだの諸形質の中でも、とくに第二次性徴の質が下がることが確かめられている 例えば、寄生虫や病原体にやられたニワトリの雄は、体重や体長の変化よりも、とさかの色と張りがずっと悪くなる 実験的な証拠や野外での観察のいくつかはこの可能性を支持している
フィッシャーのランナウェイ
雄のある形質に対する雌の好みが、ある程度以上の頻度で集団内に広まると、そのような形質がどんな適応度上の意味を持っているかにかかわらず、その形質を持っている雄しか配偶相手として選ばれなくなるというプロセス
ランナウェイを止めるのは、雄がこれ以上ある形質を持つと生きていけなくなるといったような、自然淘汰上の限界
自然界でランナウェイが働いているかどうかを検証するのはかなり難しいことだが、いくつかの研究ではそれが示唆されている
配偶者防衛
雌が他の雄と配偶しないように阻止する行動
非常に多くの種類の動物で見られ、様々なタイプの行動がある
この状態の雄は、生殖器の部分で交接しているのみならう‥雌の首を尾の把握器で捕まえていることがわかる
雌を捕まえていなくても、雄が雌のすぐ上を飛び、どこまでも一緒についていくこともある
ヤドカリの雄も、雌の入っている殻をつかんで、いつも雌を一緒に運んで歩く シカやアンテロープ、霊長類の仲間など多くの哺乳類では、雄間の闘争に勝った雄が数頭の雌の集団に追随し、彼女らと配偶するが、雌が少しでも雄から離れようとすると追いかけてそれを阻止する おとなの雄は、雌がまだごく幼い時に親元から誘拐することによって、ハーレムの雌の数を増やしていく
雄は雌が離れようとするとすぐに首に噛み付くことによって、自分のハーレムに追随することを雌に強いる
死んでしまう雌もある
雄による配偶者防衛が完全に成功している場合には、雌による選り好みがたとえあったとしても、それが実行できなくなってしまう
雄による配偶者防衛がある種というのは、すなわち、雄間に配偶機会をめぐる競争が非常に強いので、そうであれば、雄の体重が雌よりも大きかったり、雄に武器のような形質が備わっていたりすることにより、雄は雌よりも力が強くなる
雄が力によって雌の行動を制限することが可能となる
子殺し
子殺しは配偶のチャンスをめぐる雄間の競争が強い場合に、その帰結として現れる行動 厳しい競争があるため、ハーレムを乗っ取ることに成功した雄も、すぐにまた自分も新しい雄によって追い出されてしまう
雄がハーレムの中に居られるのは平均で約2年
雄はできるだけ急いで繁殖をしなければならない
一方、雌は授乳中は発情が抑えられているため、雄は離乳を待っていたのでは最長で1年かかる
子供を殺せば授乳が強制的に終了するので、発情がすぐに再開する
このような状況では、新しい雄による子殺しは、その雄にとって有利な戦略となる
子殺しは雄にとっては有効な戦略だが、雌にとっては、自分の子が殺されることは、明らかに適応度の損失 子殺しの見られる動物では、雌は確かに抵抗しているが、なかなか功を奏しない
子殺しが起きるような種類では、雄間競争が激しいので、雄の方が雌よりも体が大きく、犬歯その他の武器的性質も格段に大きいので、雌は雄に太刀打ちできない 進化的にかかっている淘汰圧の違い
雌には次の繁殖チャンスがあるが、雄にとってはそのときだけしか繁殖のチャンスがない
進化的軍拡競争では、雄が勝つことになる
しかし、子殺しが雌自身にとっては非常に大きなダメージであることに変わりはない
それまでに行った育児投資が無になり、雌の繁殖スケジュールを大幅に変えてえしまう
特定の雄に対する雌の選り好みがあったとしても、雄による乗っ取りと子殺しは、そのような選り好みの可能性もすべて消してしまう
もちろん、子殺しが見られない種の方が多いが、だからといって雄の子殺し傾向がないわけではない
そのような種では、雌どうしの連合や乱婚性など雌の側のより強力な対抗戦略が働いていると考えられる 雄と雌の配偶者の選り好みの不一致
霊長類など多くの哺乳類では、複数の雄と雌を含む集団で暮らしている
多くの場合、雄間の直線的な順位が存在する
雄同士の闘争で決まる事が多く、順位の高い雄は順位の低い雄の行動を制限することができる
しかし、高順位の雄がつねに雌から好まれるとは限らない
雄の選択と雌の選択の間に不一致が生じる
ニホンザルでは、高順位の雄は、しばしば雌を発情期間中防衛しようとするが、多くの場合、監視下にある雌はその雄ではなく、群れの外部の雄や、順位上昇中の若い雄と交尾しようとする 配偶者を防衛し続けようとする雄と、なんとかしてそれを抜け出そうとする雌の間に、色々な攻防が演じられることになる(長谷川寿一, 1992) ニホンザルもハヌマンラングールと同様に、雄の方が体が大きく力が強いので、雌は激しく噛みつき、雌の行動をコントロールしようとする
一方、マダガスカルに生息しているキツネザルの仲間の大部分は、雌の方がからだが大きく、その結果、雄よりも順位が高くなる シファカという原猿は、集団で暮らし、雄にも雌にも順位があるが、雌は常に押すよりも順位が上になる シファカにおいてもニホンザルと同じく、高順位の雄が低順位の雄の行動を制限して、自分の配偶したい雌に接近しようとするが、雌の方が順位が上であるため、雌は容易に自分の好みを通すことができる
雄と雌の間に好みの不一致が生じた時に、どのような解決のオプションがあるかは、雄と雌の基本的な体力の違い、生体環境の違い、社会の構造の違いなどの要因の影響を受ける
「雄と雌」から「男と女」へ
人間の男女関係を考えるにあたって、その生物学的背景を知っておくことが重要
従来の心理学では、学習や思考や認知といった、いわゆる「高次な」認知機能についてたくさんの研究がされてきたが、性や暴力については体系的な理論づけが遅れてきた 進化生物学の理論は、繁殖や配偶活動に直接関連する心理メカニズムの説明に対して、特に威力を発揮するだろう